竹村男塾

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井上円了の妖怪学

近代日本を作った男たち 第20回

Takemura
井上円了

超常現象は非科学か

筆者は超常的金現象、一般には常識を超え、科学では説明できないことに興味がある。ただ、超常現象というと多くの場合、テレパシーや念力、スプーン曲げといったオカルト現象のことを指すようであるが、信じる人もいれば、信じない人もいる。

しかし、信じない人も興味はあるようだ。例えば、自分自身や他人が不思議な体験をした話を好む。ごく近い将来の出来事を“虫が知らせる”という方法で感じたとか、ある場所に初めて行った時、以前にもここに来たことがある=デジャブ(既視感)と感じたり、ということがある。

筆者は、超常現象の多くは科学的に解明できると考える。その根拠はある。例えば、18世紀のイギリスの化学・物理学者ファラデー(ベンゼンや電磁誘導の法則発見で有名)である。ブァラデーは当時「テーブル・ターニング」という不思議な現象の解明に当たった。

テーブル・ターニングとは、数人の人がテーブルを囲んで座り、両手をテーブルの上に置く(ただ置くだけで力を入れない)と、テーブルが動いてテーブルの足が床を叩く、という現象のことである。ファラデーはこの現象の解明に当たり、人の潜在意識がテーブルを動かすことを証明した。

これと同じような現象は「シュブリュールの振子」にも見られる。

これは誰でも簡単にできる実験である。まず、20センチ程度の糸をつけた5円玉を用意する。次に、1枚の白紙に直径5~8センチ程度の円を描き、中心に2本の直径で十字架を措く。

次に、糸をつけた5円玉を右(左)手に持ち、円内の直径が交差する中心点より20センチ位の高さに置く。そして5円玉を見つめながら、心の中で“まわれ、まわれ”とか“左右に揺れよ”と念じる。すると5円玉は円を描いたり、振り子のように左右に揺れる。

この2つの例で見るように、人間の「思い込み」がものを動かす。このことを日本で最初に研究したのが井上円了である。

哲学普及と東洋大学

井上は1858年(安政5年)長岡藩にある真宗大谷派の慈光寺の長男として生まれる。若い頃から漢学や洋学を学ぶ。その後東京大学の文学部哲学科に入学。明治19年、東大の学生を中心に「不思議研究会」を設立し、超常現象の研究に取り組む。

また、哲学を普及させるために、明治20年「哲学館」を創設する。(この哲学館は現在の東洋大学である。)井上は哲学こそ諸学の基礎であると考えていた。井上が哲学普及のために行なった全国巡回講演活動は、述べ27年間に及ぶ。

このように、井上は哲学普及に功績をあげたが、井上を有名にしたのはむしろ「妖経学」の方である。日本の妖怪は幽霊、天向、犬神、狐狸、呪、祟りなどであり、当時の一般の人々はこれらの妖怪を本当に存在すると信じていた。

全国各地の妖怪を調査研究した井上は、妖怪を4つに分類した。「真怪」(当時の科学では解明できない)、「仮怪」(自然現象によって発生する)「誤怪」(恐怖心などの心理的要因によって発生する)、「偽怪」(人間が人為的に起こした)。そして井上はほとんどの妖怪は迷信であるという。

井上の妖怪研究の目的は何か。

それは、明治維新という近代化の中で、哲学による文明開化を目指していた井上は、人々がこれまで信奉してきた迷信が残っている限り、真の文明開化はない、と考えたからではないか。

ところで井上は妖怪はほとんど科学的に解明できるとしたが、全ての妖怪を迷信と片づけてはいない。それは、科学といえども迷信を生む人の心を、全て否定することはできないからではないだろうか。

例えば「UFO」は科学的にはまだその存在が確認されていない。だが、存在すると考える人の心には夢があって楽しいはずだ。

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